小説「スロウハイツの神様」著・辻村深月  あらすじ、感想、ネタバレあり

タイトル「スロウハイツの神様」 著者 辻村深月

出版 講談社  出版年:2007年

 

記念すべき書評第一作目は最近読んだ「スロウハイツの神様」です。

あらすじと感想の方も書いてきます。




あらすじ

人気作家チヨダ・コーキが、ファンによる殺人ゲームにより筆を折ってから10年。

 

「コーキの天使ちゃん」によって復活を遂げたチヨダ・コーキは、新人脚本家・赤羽環に誘われ、彼女がオーナーを務める「スロウ・ハイツ」に入居し、クリエーターを志す狩野たちと暮らし始める。

 

 加々美莉々亜の存在から変革を始めていたスロウハイツでの生活は、ある日、一通の郵便が環の手に渡ったことで大きく揺れ始める……。

 

あらすじ上巻

 

本作の主人公はスロウハイツという名のアパートに住む6人のクリエイターたちです。

 

オーナーの赤羽環は有名脚本家。負けん気の強い女性です。

 

そんな彼女が尊敬し、スロウハイツでも一番の稼ぎ頭である作家のチヨダコーキは、伝説的な作家です。なんと彼の小説の真似をして集団自殺しちゃう人たちが出現したくらい。

 

チヨダコーキはその事件のせいで大変なバッシングを受けましたが、ある一人の少女からの100通に及ぶ手紙で元気を取り戻し、作家として復帰しました。

本作はチヨダコーキと環、そして他のクリエイターたちの小話が入れ替わり立ちかわりで描かれています。

 

上巻ではそれぞれの悩みや人生観、仕事観が描かれます。

環とチヨダコーキ以外のクリエイターたちは才能があるけれど、信念があるせいでビッグチャンスが掴めません。

 

絵の上手な森永すみれ、その彼氏で映画監督の卵、長野正義。

環の親友の児童漫画家志望、狩野壮太。

 

他にもう一人、チヨダコーキのマネージャー黒木の部屋もありますが、彼は他の場所に住んでいるためあまり顔を見せません。

 

それぞれが様々な悩みを抱える中で、ひとつふたつ事件が起こります。

 

偉大なるチヨダコーキの真似をする作家が現れたのです。名前は鼓動チカラ。

作家名やタイトル、物語の転換がチヨダ作品と同じことから、環は激怒。しかし偽物の登場で本物の作品がさらに売れると、マネージャーの黒木は取り合ってくれません。

 

チヨダコーキも、おっとりした性格なため、偽物に対する怒りは感じず、それどころかパクられた作品を面白いと評価します。

そんな折、スロウハイツに新しい住人がやってきます。

 

ザぶりっこの加賀美りりあは、引っ越し当日からチヨダコーキの部屋に入り浸り彼に夢中になります。

スロウハイツの住人たちは、もしかしたら加賀美りりあがチヨダコーキにファンレターを送り続けたファンの子ではないかと推測を始めます。

 

今まで女性と付き合ってこなかったチヨダコーキは可愛い加賀美りりあに少なからず好意を抱いているようで……。

 

しかし加賀美が引っ越して来て、少したったころ、ある封筒がスロウハイツに届きます。スロウハイツのオーナーでありチヨダコーキのファンである赤羽環は「まさか」と声を震わせるのでした。

あらすじ下巻




加賀美りりあが引っ越してきてから、チヨダコーキの偽物の作品が、さらにチヨダ寄りになっていきます。

展開も構図もそっくり。

 

それどころかチヨダの先を行くような物語になっていきます。

鼓動チカラの作品で人が死ねば、その後に発売されたチヨダの作品でも人が死にます。

まるで逆にチヨダコーキが鼓動チカラをぱくったような、そんな売り方になってしまいます。

スロウハイツの住人はチヨダコーキが大好きなので、みなこれは酷いと怒りをあらわにします。

 

その中でも一番怒りに燃えていたのが、赤羽環でした。

彼女は実は母親が詐欺師で、そのせいで転向したり、嫌な目にあったりと壮絶な人生を歩んできました。しかし彼女は自分の体験と母親への憎しみを題材に脚本を書いて、賞を取り、そこから脚本家として大成していきます。

 

クリエイターとしての誇りと、チヨダコーキを侮辱するようなやり方に環は切れて、ある真実を突き止めます。

 

なんとチヨダコーキの作品をぱくっていたのは、ぶりっこの加賀美りりあでした。

りりあはコーキのマネージャー黒木と手を組んで、チヨダコーキっぽい作品を作っていたのでした。

 

環はビジネスしか頭にない黒木に、偽物の作品を終わらせるよう頼みます。

私が偽物の作品の最終展開を考えるからと言って。

黒木は有名脚本家である環なら面白い終わらせ方ができるだろうと踏んで、彼女の条件を聞き入れます。

 

そして環はりりあに、スロウハイツに残る様に言います。

ぱくった作品は手放して。私が後始末を付ける。でもあなたはスロウハイツに残って欲しい。

りりあがどうしてと不機嫌に聞くと、環は答えます。

 

加賀美りりあが急にいなくなれば、チヨダコーキが悲しむかもしれないと。

環はチヨダコーキを想って、りりあに土下座までします。

りりあはそんな環に偽善者、反吐が出そう、チヨダコーキなんて大嫌い、でも彼は私が好きよと言って、環にマウントを取りますが、結局はスロウハイツを出ます。

スロウハイツの住人たちは、チヨダコーキは加賀美りりあが好きで、また彼女も彼が好きだと思っていました。

 

そして、環がチヨダコーキを好きなことも、みんな気が付いていました。

でも本当は違いました。

 

チヨダコーキにファンレターを送り、彼を勇気づけたのは高校生だった赤羽環で、彼はその事実を何年も前に知っていたのです。

そして環が高校生の時、彼女に内緒で、コーキは彼女を影ながら見守っていました。詐欺師である母親のせいでお金のない環と、その妹の為にテレビをあげたり、クリスマスケーキを買ってあげたりしていたのです。

 

もちろん環はプレゼントしてくれた人物がコーキだとは知りません。

でもチヨダコーキはずっと前から環を知っていたのです。そして彼女のことを一番に思っていた。

 

最後二人が結ばれるようなはっきりとしたエンディングはありませんが、しかし二人はそのご何十年も一緒に居たという説明から、環とチヨダコーキがどうなったのか、想像できます。

スロウハイツの住人はやがてその家を出ます。

 

環は脚本の仕事でアメリカへ。コーキは相変わらず小説を書いて。

正義は映画監督、すみれは絵描き、狩野は児童漫画家に。

それぞれが夢や仕事の為に人生を歩んでいくのでした。

 

感想

 

作者辻村深月の小説を読むのはこれが二冊目です。

彼女、くらーい作品は暗く重く、ずっしりと精神に来るような小説を書くのですが、スロウハイツのような爽やかに見える作品でも中々えぐいテーマを盛り込んできます。

 

 特にクリエイターである主人公たちの生きざまは、胸に来るものがあります。生みの辛さというのは、創作者にしか分かりませんが、しかし、一度でも何か物を作ったことがあるひとは、この本を読んで心臓をえぐられると思います。

 

なにかを生み出すには本当に自己と向き合い、信念を持たなくてはならないんだなと感じました。

作家のチヨダコーキは天才なので、生みの苦しみについては記載されていませんが、彼も彼で悩みがあって、天才なのにそれが悩みかあと思いました。

 

あらすじには書かなかったのですが、実は正義とすみれの恋や、環の恋、生い立ちについてあれやこれや書かれています。

付箋も沢山散りばめられています。

 

下巻の最終章でふせんが回収されていくのですが、もうそれがまじですげえ!!となります。

チヨダの発言はそういう意味だったのか!と。

手を叩きました。ほんと、サルみたいに手を叩いちゃいました。

 

辻村深月さんの作品ってふせんが色んな所に、一見するとそうは見えないように仕組まれているので、読み進めると「ええ、そういう意味だったの」とビックリします。

スロウハイツの神様にはそんなびっくりが沢山仕込まれています。

 

恋愛小説だ

 

でもなにより感動したのは、チヨダコーキと環の繋がりです。

環のコーキに対する愛は、上巻からひしひしと感じていて、それがむくわれなくて、「ああ、環。ああ…」となっていたのですが、下巻で見事タネが明かされてヤッター!!!となりました。

 

実はチヨダコーキも環のことが大好きだったんですねえ。

もう早く言えよ~~。なんだよもう。

チヨダコーキはガリガリに痩せていて、引きこもりで、オタクで、でも心が優しい小説家です。読む人によってはきも!と思うかもしれませんが、しかし、彼ほんとうに素敵なんですよ。

 

私は好きです。チヨダコーキ。

環の為に考え、行動する彼はとてもかっこいいです。

頑張り屋で、でも本当は弱さを持っている環に気づいて、そっと優しくするチヨダコーキが素敵過ぎて…。

 

もうこの作品はチヨダコーキと赤羽環の恋愛小説だと、私は思っています。

それくらい二人の気持ちが交差していないようで交差している小説でした。

簡単に言うと、すごく面白かったです!!!

それを早く言えって感じですね。

 

上巻は文庫で350ページオーバー、下巻は470ページ以上ありますが、すいすい読めます。難しい文章ではありません。

 

下巻の最終章は猛スピードで展開が進むので、私はノンストップで読み終えちゃいました。

いやー久しぶりに面白い小説を読みましたよ。

辻村深月さん、いいなあ。素敵だなあ。

 

ふせんと回収

 

どういった点がふせんなのかもついでに書こうかと思います。

赤羽環の母の詐欺。これにより彼女は転校を余儀なくされ、また両親は離婚しました。

 

チヨダコーキのファンが誰か、編集部で探しても見つからなかったのはこのためです。名字が変わり、場所を移していたため、編集部は環の存在に気づきませんでした。

(手紙の内容から推理し、コーキだけは環に行きつきました)

 

また作中では覆面漫画家が登場します。

それが実は、スロウハイツの住人狩野壮太なのですが、これにもトリックが。

覆面漫画家の名前は、幹永舞(ミキナガマイ)

 

読み方変えれば「かんえいぶ」

英語にすると「can able」。つまり 可能。 狩野(カノウ)となります。

気づいた方素晴らしいです。すごい。

 

それからチヨダコーキがコスプレをして職質されたことや、ちょっとストーカーをしたことも、話を聞いた狩野は嘘だと思い信じませんでしたが、本当の事でした。

 

読者だけがそれを知ることになるのですが、知った時は「ああ!」となります。

そういうことだったのか、と。

他にも環が有名ブランドのケーキをコンビニで買った話など、ちょっとあれ??と感じるシーンが多々あります。

その違和感は下巻の方で見事に回収されます。

 

 他にも沢山のふせんが潜んでいるので、ぜひ読んで見つけてみてください。

 

漫画もあるよ

本作はマンガ版も発売されています。

しかやはり小説の完成度が高いのでマンガの方はイマイチな印象です。

 

最後にひとこと

 予定調和な部分はあるが、それでも楽しめるスロウハイツの神様。

 恋愛度が強くない恋愛小説が読みたい人におすすめです!!